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仙台高等裁判所 平成7年(行コ)5号 判決

岩手県宮古市崎山四地割一五二番

控訴人

佐々木正志

右訴訟代理人弁護士

菅原一郎

菅原瞳

佐々木良博

岩手県宮古市保久田七番二二号

被控訴人

宮古税務署長 沢田眞

右指定代理人

加藤修司

阿部覚己

川上正幸

粟野金順

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し昭和六二年一一月三〇日付けでした控訴人の昭和五九年分、昭和六〇年分及び昭和六一年分の所得税の各更正処分のうち原判決別表一「確定申告」欄記載の総所得金額を超える部分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目表一行目の「漁業所得」の次に「(その他事業所得)」を加え、同二行目の「その額は、」の次に「別表三記載のとおり」を加え、同八行目の「実額がいくらか」を「実額の主張が理由があるか」に改める。

二  同五枚目表二行目の「いうべきである。」の次に「また、申告納税制度の趣旨に照らすと、控訴人の『昭和六一年分について控訴人の申告に基づいて還付すべきであり、調査が必要であるならその上で調査すべきである』旨の主張は、納税者としての正当な主張というべきであって、控訴人がかかる主張を行ったことをもって調査への非協力の懲憑とすることは許されない。」を加える。

三  同五枚目表九行目の「合理性があったか」を「合理性があるか」に改める。

四  同五枚目裏四行目末尾に「なお、被控訴人が原処分後に収集された証拠資料に基づき、また、原処分当時の推計の方法とは異なる他の合理性のある方法により、控訴人の所得金額の推計を行うことは許されるものである。」を加え、同七枚目表一行目末尾に「なお、当初、青色申告者から抽出しようと試みたものの、抽出者数が皆無であったことから、やむを得ず白色申告者から抽出したものであり、その抽出に当たっては、その所得の計算内容が正確であることを調査確認のうえ類似同業者としたものであるから、青色申告者に準じて資料の正確性が担保されているものである。また、控訴人は、漁業所得を有する者であるが、推計課税における類似同業者については、その業態等の酷似性又は合致性まで必要とされていないものであり、余りに厳格に類似性を要求することは推計による課税を不可能にすることになりかねないし、控訴人が行っていた漁業の事業形態は、特に施設を有するような事業規模ではなく、その事業の従事期間は、他の所得に影響を与えるほどの規模によるところではないから、『漁業所得を有する者』を抽出要件に考慮していないことをもって不合理ということはできない。」を加える。

五  同七枚目表三行目と四行目の間に「まず、本件において判断されなければならないのは、原処分庁の行った原処分自体の推計の合理性であるところ、右推計の合理性が認められない。仮に、仙台国税局長の行った推計が合理性を有するとしても、右原処分の推計の合理性を基礎付けることはできない。」を加え、同五行目末尾に「また、推計課税における類似同業者は、青色申告者から抽出されるのが原則であるところ、本件においては、申告内容の正確性について制度的な担保を欠く白色申告者から抽出されており、これによる推計には正確性に疑問がある。」を加え、同八枚目裏四行目の次に改行して「また、被控訴人は、申告書の記載等から控訴人が給与所得を有しながら農業及び漁業を営む者であつたことは知り得たはずであるから、類似同業者の抽出基準としては漁業所得を有し、その規模も類似する者を抽出し得る基準を設けることは可能であり、また設けるべきであったもので、漁業所得を有する者を類似同業者抽出の基準としていない推計は合理性を有しない。」を加える。

六  同一一枚目表二行目の「実額はいくらか」を「実額の主張が理由があるか」と改める。

第三証拠

原審及び当審の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  争点に対する判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一八枚目表九行目の「民主商工会の」の次に「事務局員の」を加える。

2  同二一枚目裏一行目と二行目の間に「課税処分取消訴訟の審判の対象は、当該課税処分の実体上及び手続上の違法性一般(総所得金額に対する課税の違法一般)であり、その実体上の審判の対象は当該課税処分によって認定された課税標準等の存否(当該課税処分によって確定された税額の適否)であるから、課税庁としては、原処分時に課税標準等を認定する根拠とした事実だけでなく、原処分時に考慮しなかった事実を当該課税処分を維持する理由として訴訟において主張することができるものと解すべきであり、原処分後に収集された証拠資料に基づき、原処分(若しくは異議決定)時の(又は審査裁決で採用された)推計方法とは異なる他の合理性のある推計方法を主張、立証することが許されるものであるから、この点についての控訴人の主張は失当である(なお、被控訴人が本訴で主張する推計方法は、仙台国税局長名の通達により収集した資料に基づくものであるが、仙台国税局長の行った推計というのは相当でない。)。」を加える。

3  同二三枚目表二行目の「右によれば、」の次に「抽出された納税者はいずれも白色申告者であるところ、類似同業者の抽出に当たっては、資料の正確性の観点から原則として青色申告者を対象とするのが妥当であるが、青色申告者から類似同業者を抽出することができなかった本件のような場合には、白色申告者であっても後記のとおり申告時又はその後の調査によって申告が妥当であると判断された者は青色申告者に準じて資料の正確性が担保されているといえるから、この点に関する控訴人の主張は理由がない。そして、」を加える。

4  同二三枚目裏六行目の「所得率」を「単位面積当たり平均所得金額」に、同八行目の「差異」を「事業条件の差異」にそれぞれ改め、同二四枚目表七行目末尾に「なお、控訴人は、給与所得及び農業所得のほかに漁業所得を有する者であるところ、推計課税における類似同業者については、その業態等の酷似性又は合致性まで必要とされていないものであり、余りに厳格に類似性を要求することは、抽出同業者数が極めて少数となり、余りに少数の同業者を基礎とする推計はかえって普遍性を欠くことになるし、更には、類似同業者の抽出ができずに推計による課税を不可能にすることにもなりかねない。しかも、乙五八号証の一、二、五九号証及び弁論の全趣旨によれば、控訴人の漁業水揚高は少量、少額にとどまるもので、控訴人が漁業に従事する割合は僅少であることが認められるから、『漁業所得を有する者』を類似同業者の抽出基準としていないことをもって当該推計方法に合理性がないということは到底できない。」を加える。

5  同二五枚目表六行目及び同八行目の各「国税不服審判所」を「国税不服審判所長」に、同六行目の「原処分庁たる」を「原処分(異議決定を含む。以下同様である。)時に」に、同一〇行目「原処分庁たる」を「原処分時における」に、同裏一行目の「原処分たる被告における」を「被控訴人の原処分時における」にそれぞれ改める。

6  同二七枚目表八行目の「右統計事務所」を「右統計情報事務所」と改め、同裏八行目の「認め難い」から同一一行目末尾までを「到底認められず、その経費実額が推計された収入金額と対応したものであることを主張(立証)しない限り、被控訴人主張の推計課税に対する有効な実額の主張ないしより合理的な推計方法の主張とはなり得ないと解するのが相当であるところ、控訴人は、右対応関係の主張、立証をしていない。したがって、控訴人の右主張は、控訴人の経費についての実額の主張の当否について判断するまでもなく、採用することができない。」に改める。

7  同二八枚目地表二行目の「推計課税取消訴訟」を「推計課税の方法による課税処分の取消訴訟」に、同三行目の「推計課税の違法性」を「右課税処分の課税根拠の違法性(所得金額の過大認定)」に、同八行目の「負うている」を「負っている」にそれぞれ改める。

8  同三三枚目表九行目の「比較」を「比較的」に改める。

9  同三三枚目裏五行目「推計課税」から同八行目末尾までを「推計課税の方法による課税庁の課税根拠の主張に対する有効な反論として認められないことは先に説示したとおりであるから、控訴人の実額の主張は、その経費についての実額の主張の当否について判断するまでもなく、採用することができない。」に改める。

二  よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官 永田誠一 裁判官 杉山正己)

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